よたろぐ

弾き語り、おりたたみ自転車とカメラのブログ

平和な日本人には理解しにくいEUの存在意義

BREXITで揺れるEU。イギリス議会の迷走ぶりもあって、あまり政治的な話をしない僕の周りでも話題になることが多いです。その中で、先日ロンドンでスペイン人の部下と話したEUの存在意義が興味深かったので書いてみようと思います。

www.yotaronoguchi.com

日本人の僕から見ると、EUと言う枠組みはヨーロッパ域内に強い経済圏を作るもの、そしてそれが不公平な形で実現したものに見えます。

 

いま、EUの経済的利益はドイツ1か国に集中しています。ドイツはものすごい好景気。その理由の1つはドイツの持っている経済力に対してユーロが安すぎることにあります。

 

かなり雑な議論になりますが、ドイツが現在も以前の通貨であるマルクを維持していたとしましょう。おそらく1マルクは180円程度になると思います。僕がイギリスに来た時のポンドの水準がこの程度。経済力で言えばドイツはイギリスよりも高いのでしょうからこのあたりが妥当だと思います。

 

現在1ユーロは120円前後。1マルクが180円だったとすると、50%マルクの方が高いということになります。

 

この差がどういう効果を生むか。ドイツは自動車をはじめ世界有数の輸出国です。この輸出に対して多大なメリットを生むことになります。例えばメルセデスを日本で500万円で販売した場合、本来28,000マルク程度(500万円÷180円)だった取り分が、ユーロなら41,500ユーロ(500万円÷120円)となるわけです。ドイツの産業にとってユーロと言う通貨は収入を増やすことになるわけです。(お金の根本的な価値の違いを考える人がいるかもしれません。確かにそこは論点になりえますが、先進国ではお金の根本的価値は大きく変わらないと考えてよいと思います。100円=1ドル=1ポンド=1ユーロ=10元。この感覚で買えるものはほぼ同じです。)

 

なぜユーロはこんなに安いのか。それはユーロの価値がユーロ圏全体の経済力を反映しているからです。ドイツ以外の国がユーロ全体の経済力を落とすことでユーロの価値が下がり、結果としてドイツに利することになっています。

 

債務不履行に陥ったギリシアがよい例です。ああ言った経済力が高くない国があることでユーロの価値が下がっていきます。

 

ただ、ギリシアの経済危機だってユーロの弊害が出たと言えなくもない。もしギリシアが独自通貨であるドラクマを維持していたら、まずドラクマの価値が下落し、債務の価値も減少して問題は大きくならなかった気がします。ギリシアがユーロと言う経済力に見合わない高い為替水準で戦わざるを得なかったために起きた経済危機だとも言えます。

 

当時は『働かないギリシア人』と『経済支援でそれを助けたドイツ』と言う構図のみで報道されていました。でも、うがった見方をすると、ギリシアに押し付けた自国に有利な制度を維持するためにドイツがお金を使っただけだと言えなくもありません。

 

前置きが長くなりましたが、こういった背景から、僕はEUと言う枠組みに疑問があるという話をスペイン人の部下に話しました。

 

彼の返事は僕の予想していない言葉で始まりました。

 

EUの存在意義は平和と個人のチャンス=自由を守ることにあるんです。

 

EUができる前は、ヨーロッパ域内では常にどこかで戦争が起きていました。国同士のいさかいだったり民族紛争であったり、理由は様々ですがたくさんの人が犠牲になっていました。それは人びとの利権と意識が国や民族と言った小さい共同体にあったから。EUができたことで、その利権や意識が(完全にではないにせよ)ヨーロッパと言う大きなものに移りました。それによって人々はより大きな視野を持てるようになりました。

 

これが衝突を減らすことになりました。EUができてから、域内での戦争はほぼはくなりました。犠牲になる人がいなくなった。僕の父の時代はスペインも平和とは言えなかった。でもいまは平和な国だと言える。これらはEUの功績だと思います。

 

そして、EUは僕たちにチャンスを与えてくれました。父の時代は他の国に行くことは簡単ではなかった。僕のようにロンドンの大学を卒業してそのまま就職するなんて考えるべくもなかった。でも今はそれができる。EUと言う枠組みがあって、僕らの選択肢は大きく広がったんです。そしてそういう人が増えることで、平和を維持しようという人間が増えるのだと思います。

 

一回り下の彼の言葉が沁みてきます。ちょっと自分が恥ずかしい…。

 

言い訳をすると、こういう対立は、島国で民族紛争のない日本と言う国に住む者には想像しにくいことです。それでもいまヨーロッパにいるのだからきちんと理解できなければダメですね。彼に連れて行ってもらった美術館で勉強もできていたはずなのに。 

www.yotaronoguchi.com

 経済的意義よりも平和的意義の強い共同体。いまそれを否定するポピュリズム・右傾化が各国で見られるようですが、どうもその動きは地方・老齢層から来ることが多いようです。

 

総じて地方は都市部に比べると人が少なく平和なことが多い。住んでいる民族が少ないから民族同士の緊張を感じることも少ない。そして老齢層は国をまたいで動くことがない。だから僕のように不公平感を軸に物事を考え、共同体の意義を否定してしまうのかもしれません。そう言った層も含めて民意とは言え、彼の話を聞いたあとだと危険な動きに見えてしまいます。

 

平和や自由は当たり前のものではない。その事実を理解できないと見えてこないものがあるのだと学んだ夜でした。