イギリスの郊外での暮らしと旅日記

ロンドンの南西 Guildfordという町で暮らしています。イギリスの暮らしと、旅(主に出張)、お酒と音楽の話を、あてどなく綴ります。

頭の良い人が陥りがちな罠とそれに対する坂本竜馬の回答

 と言うより司馬遼太郎の意見。理屈におぼれて本質を見落としたり、理想を実現可能と思い込んでしまって無理をしてしまうのは、頭の良い人にありがちな落とし穴ですね。よく見てるなぁ、司馬遼太郎

竜馬がゆくは、司馬遼太郎坂本竜馬好きが伝わってくる小説ですね。翔が如くの時は西郷隆盛大久保利通木戸孝允はじめ維新の立役者をこき下ろしていたのに、竜馬はものすごく魅力的に書いてある。

 

「そんな芝居を思いつくとは、半平太も人が悪くなったなあ」

「たしかに、わしは人が悪くなった」

 と、武市半平太が、いった。

「しかし竜馬、善人では、これだけの大芝居は打てないよ」

「悪人ならなお打てぬ」

 竜馬は、にやにや笑っている。

「半平太、お前が悪謀家じゃということになれば、もはや人がまわりに集まって来るまい。人が集まらぬと大事はできぬ。されば半平太、悪人というのは、結局、小事ができる程度の男のことだぞ」

「待った」

 武市は眼をするどく細めた。

「わしを、悪人というのか」

「言わぬ」

「申したではないか」

「悪謀家になるなと申した。なンも、お前が悪人じゃとは言うちょらん」

「悪謀は生涯これ一回じゃ。しかも私心あってのことではない。土佐二十四万石を、こぞって天朝のために捧げるためじゃ。そのために芋頭の重役とも手をにぎる。参政吉田をも暗殺する。半平太はなんでもやるぞ」

「半平太は狂うた」

「なんじゃと」

「お前の書いちょるのは、無理な芝居じゃ」

「なぜ」

「全藩勤王などは理想だが不可能なことだ。むかしから理想好きはお前の性分じゃ。完全を望み、理想を追いすぎる。それを現実にしようと思うから、気があせる。無理な芝居を打たねばならんようになる。かならず崩れ去る」

(『合本 竜馬がゆく(一)~(八)【文春e-Books】』(司馬遼太郎 著)より)